bookmark_border[35] 遅延損害金 年率14.6%の意義

「遅延損害金」とは、契約書に定めた支払期限までに支払いがなされない場合に損害賠償として相手方に支払う金銭のことで、通常は年利の形で定められます。一般に金銭を受領する側がひな型として準備する契約書には、年率14.6%と規定されていることが多い印象です。

契約交渉の中でその率を変えることはありますが、そもそも契約条件どおりにきちんと支払をするのであれば遅延損害金は発生しませんので、この部分が大きな論点になることは無いと思います。ただこれは相手方との関係によりますね。注意すべきなのは取引の相手方が下請法(下請代金支払遅延等防止法)適用会社の場合です。「下請代金支払遅延等防止法第4条の2の規定による遅延利息の率を定める規則」に、「下請代金の支払遅延に対する遅延利息の率は年14.6%」と規定されています。

なお、(下請法適用会社以外で)契約に遅延損害金が規定されていない場合は、民法で規定されている「法定利率」に従いますので、支払が遅れた場合、契約書に規定されていないからと言って、遅延損害金の支払いを免れることはできず請求可能です。

ちなみに契約に規定された料率、すなわち「約定利率」が「法定利率」よりも大きい場合は、約定利率を使います。

法定利率の規定は以下のとおりです。

民法 第404条

  1. 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
  2. 法定利率は、年3パーセントとする。
  3. 前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、3年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする。
  4. 各期における法定利率は、この項の規定により法定利率に変動があった期のうち直近のもの(以下この項において「直近変動期」という。)における基準割合と当期における基準割合との差に相当する割合(その割合に1パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)を直近変動期における法定利率に加算し、又は減算した割合とする。
  5. 前項に規定する「基準割合」とは、法務省令で定めるところにより、各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月までの各月における短期貸付けの平均利率(当該各月において銀行が新たに行った貸付け(貸付期間が1年未満のものに限る。)に係る利率の平均をいう。)の合計を60で除して計算した割合(その割合に0.1パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)として法務大臣が告示するものをいう。

この様に、基準は年3%なのですが変動を許容する規定となっており、法務省は「令和5年4月1日以降の法定利率について」というサイトで令和8年3月末までは「3%」と公表しています。

蛇足ながら、14.6%というのは、昔の「日歩4銭(100円につき一日あたり0.04円)」から来ているそうです。(0.04円/日 X 365日 = 14.6円)その流れかどうか分かりませんが、税法上の延滞税も一定の減免はあるものの基本は14.6%です。

それから、利率の上限は「利息制限法」や「消費者契約法」に定められています。利息制限法は「金銭消費貸借契約」すなわち金銭を貸し借りするときの利率について第1条で規定しており、元本の金額により異なりますが100万円以上の場合は年15%です。なお、金銭の返済が遅れた場合の遅滞金を算出する際の利率は第4条で規定しており、金銭消費貸借契約における約定利率としてはこれ以下に抑える必要があります。ちなみに金銭を貸すことを業として行ういわゆる「営業的金銭消費貸借」の場合は、利息制限法において別の規定がありますので注意が必要です。

利息制限法 第1条

金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。

  1. 元本の額が10万円未満の場合 年2割
  2. 元本の額が10万円以上100万円未満の場合 年1割8分
  3. 元本の額が100万円以上の場合 年1割5分
利息制限法 第4条
  1. 金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が第1条に規定する率の1.46倍を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
  2. 前項の規定の適用については、違約金は、賠償額の予定とみなす。

また消費者契約法は、契約相手方が一般消費者の場合に適用され、その中で遅延損害金の上限を年率14.6%と定めています。

消費者契約法 第9条
  1. 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
    1. 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
    2. 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年14.6パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分
  2. (省略)

この様に、契約相手方が法人、団体、個人事業主、一般消費者のいずれの場合であっても、金額の多寡によらず「年14.6%」に抑えておけば法令に違反することはありませんので、金銭を受領する側としてはこの料率を契約交渉の起点とする意義は大きいと思います。