bookmark_border[48] 「著作権」と「著作者人格権」

著作権については「[16] 知的財産権」で簡単に解説しましたが、今回は著作者人格権と絡めて説明したいと思います。著作権法第17条には以下のように規定されています。

(著作者の権利)
第十七条 著作者は、次条第一項、第十九条第一項及び第二十条第一項に規定する権利(以下「著作者人格権」という。)並びに第二十一条から第二十八条までに規定する権利(以下「著作権」という。)を享有する。
2 著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。

「次条(第十八条)第一項、第十九条第一項及び第二十条第一項に規定する権利」が「著作者人格権」ということですが、それぞれ以下の権利が規定されています。

第十八条第一項 著作者は、その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。以下この条において同じ。)を公衆に提供し、又は提示する権利を有する。当該著作物を原著作物とする二次的著作物についても、同様とする。

→「公表権」と呼ばれます。

第十九条第一項 著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。

→「氏名表示権」と呼ばれます。

第二十条第一項 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。

→「同一性保持権」と呼ばれます。

また「第二十一条から第二十八条までに規定する権利」が「著作権」で、条文は省略しますが以下のように様々な権利があります。

第二十一条 複製権
第二十二条 上演権及び演奏権
第二十二条の二 上映権
第二十三条 公衆送信権等
第二十四条 口述権
第二十五条 展示権
第二十六条 頒布権
第二十六条の二 譲渡権
第二十六条の三 貸与権
第二十七条 翻訳権、翻案権等
第二十八条 二次的著作物の利用に関する原著作者の権利
ちなみに著作者人格権や著作権の譲渡には、法律上一定の制限がかけられています。
(著作者人格権の一身専属性)
第五十九条 著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。
(著作権の譲渡)
第六十一条 著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。
2 著作権を譲渡する契約において、第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。

ここで第61条2項に注意する必要があります。著作権を譲渡する場合や譲渡を受ける場合は、第27条、第28条の権利を含める旨を明記しないとこれらの権利(翻訳権、翻案権等、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)が譲渡対象から外れてしまうリスクが生じます。

また、第59条により著作者人格権の譲渡は禁止されていますが、著作者が勝手に著作者人格権を行使すると、(現)著作権者の権利が制限されるおぞれがありますので、著作権を譲渡する場合や譲渡を受ける場合は、著作者人格権の行使を禁ずる条件を規定します。

bookmark_border[24] 特許ライセンス契約

「特許ライセンス契約」は先日解説したライセンス契約の一種なのですが、特徴的なところがありますので、今回はこの契約について解説します。

そもそも「特許」とは何かといいますと、まず「発明」をしてそれを特許庁に特許出願し、特許庁で特許要件(新規性や進歩性その他の形式的要件)の審査を経て登録され権利化されたものと、権利化前の特許出願中のものを総称していう場合が一般的かと思います。

ライセンスですから、特許権(および特許出願中であれば特許権を得る権利)を相手方に譲渡するのではなく、その特許を実施する権利を許諾するというものです。

「実施」というのは利用するということで、具体的にはその特許技術を利用して開発・製造した製品やサービスを販売することです。単に研究開発段階で留まっている状態では、通常、実施とはみなされません。

なお、競合企業同士では、互いの特許を実施できる「特許クロスライセンス契約」を締結することがあります。これは相互に自社の特許を相手方にライセンスするための契約で、両者の特許力のバランスによって対価が決まってきます。バランスが取れていれば無償、すなわちフリークロスライセンスになりますし、バランスが取れていない場合は有償のクロスライセンスまたはクロスではなく片方向のライセンスとなります。

それから、特許の世界では訴訟となるケースが多く、競合企業同士ではライセンス条件が合意できない場合とか、またパテントトロールといって、自分では事業をせずに他者から特許権を購入しそれを元に事業会社に対して攻撃する(最初は条件交渉を行い決着がつかない場合は提訴のうえ和解に持ち込み収益を図る)というビジネスモデルも存在しています。

契約の話から少し外れてしまいましたが、事業会社としては常に世の中の特許状況を見ながら知財リスクを判断することが重要です。

 

 

bookmark_border[21] ボリュームディスカウント

ライセンス契約において「ボリュームディスカウント」とは、ライセンス対象物をたくさん利用すればするほど、ランニングロイヤルティの単価を安くするというものです。

例えばソフトウェアを対象としたライセンス契約において、ライセンシーがそのソフトウェアを搭載した製品を販売した場合、1台あたり100円のロイヤルティをライセンサーに支払うという条件が定められていたとします。その場合、その製品が100台売れればロイヤルティは1万円ですし、1万台売れれば100万円です。

しかしながら、ライセンシーが何台対象製品を販売しようとライセンサーとしては余分な手間はかからないですし、販売台数に関係なくロイヤルティ単価が同じであればライセンシーとしても販売拡大のモチベーションは上がりません。

そのためライセンス契約や売買契約には、ボリュームディスカウントが設定されることがあります。

一例として、ライセンス契約におけるロイヤルティ単価を具体的な数字で説明しますと、

1台め~100台め: 1台あたり100円

101台め~200台め: 1台あたり90円

201台め~300台め: 1台あたり80円

この様な条件の場合、対象製品を250台販売した場合は、ロイヤルティは次のように計算されます。

100台x100円 + 100台x90円 + 50台 x 80円 = 23,000円

ここで、1台めから200台めまでのロイヤルティ単価が全て80円にはならないことに注意してください。

一方、ロイヤルティが次のような条件の場合は、

~100台: 1台あたり100円

~200台: 1台あたり90円

~300台: 1台あたり80円

110台販売した場合は、110台x90円 = 9,900円となり、100台販売したときの 100台 x 100円=10,000円よりも安くなってしまいますね。

この様な逆転現象が起きないように、またロイヤルティを計算する際に誤解が生じないように、契約書には条件をきちんと明確に定めておくことが重要です。

 

bookmark_border[20] ライセンス契約

「ライセンス契約」とは、使用許諾契約(又は利用許諾契約)のことで、一方の当事者が保有する無形資産を他の当事者に使用(又は利用)させるための契約です。

ここで「使用」と「利用」の違いを説明しますと、使用に比べて利用の方が範囲が広い概念です。利用は「使用」を初め、「複製」「改変」「頒布」など様々な使い方が含まれます。もちろん利用の範囲は契約で規定されますので、それを超えた使い方は認められません。

しかしながら契約書に規定された利用範囲にかかわらず、契約書の表題として「使用許諾契約」「利用許諾契約」を使い分けている契約はそれほど多くないと感じています。そのため、ここではそれらを総称して「ライセンス契約」ということにします。

ライセンス契約の肝は、「許諾する対象物と利用範囲」の特定です。対象物は、多くの場合ソフトウェアや特許、ノウハウなどの知的財産権です。なお、特許の場合は「利用」ではなく「実施」という言葉を使います。また契約当事者は、許諾する側を「ライセンサー」、許諾を受ける側を「ライセンシー」といいます。

許諾する権利ですが、「使用権」「複製権」「改変権」「頒布権」のほかに、第三者に再許諾するための「再許諾権」が設定される場合があります。それから、許諾された権利はそのライセンシーだけが使えるのか(独占的許諾)、そうではなくライセンサーは同様の権利を他のライセンシーに許諾し、そのライセンシーも使えるのか(非独占的許諾)も契約に規定されます。通常は、ほぼ非独占的許諾です。

また、許諾した権利をライセンサー自身が使えるように念のため明記したり、特に国際契約では許諾地域も明記したりします。

さて、権利を許諾するからにはそれに見合った対価が必要ですね。その対価のことを「使用料」「利用料」「実施料」「ライセンス料」「ロイヤルティ(ロイヤリティ)」など、様々な言い方があります。実施料は、上述のとおり特許権の許諾に対する対価です。ここでは「ロイヤルティ」という表現を使うことにします。

ロイヤルティにはいくつか種類があり、代表的なものに「ランニングロイヤルティ」があります。これは、許諾された対象物を頒布(製品に組み込んで販売)した数や売上に応じて支払われる対価です。しかしながら、ランニングロイヤルティの場合は、定期的に(例えば四半期毎に)ライセンシーがライセンサーに販売実績報告をして、ライセンサーが請求書を発行し、ライセンシーが支払うというオペレーションが必要で、また販売実績報告はライセンシーの自己申告であることから、ライセンサーがその内容を実地監査するなど結構手間と費用がかかる方法です。

従って、ランニングロイヤルティ方式とする代わりに、契約締結後に一括でロイヤルティを支払う「一括金」方式があります。この場合は、あらかじめ販売数を想定して金額を決めますので、実際の販売数が想定数に満たなければライセンシーに不利になりますし、逆の場合はライセンサーに不利になります。またその中間の方式として「一時金+ランニングロイヤルティ」方式もありますが、いずれの方式を採るかはもっぱらライセンサー主導で決まることが多いと思います。

この様に、ライセンス契約は無形資産自体の財産権を相手方に移転させることなく、その利用を許諾するものです。