bookmark_border[38] Wordファイル流用時の注意点

これまでのブログ記事で紹介したかどうか失念しましたが、契約書(案)をパソコンで作成する際、似たような既存の契約書データファイルを流用することがあります。それはそれで良いのですが、その際、既存ファイルのプロパティ情報をきちんと消さないと、その契約書の相手方情報などがそのまま残ってしまい情報漏洩となるおそれがあります。

私が使っているWordでは、「ファイル」→「情報」をクリックしていくと画面の右側にその文書ファイルのプロパティが表示されます。

プロパティ情報は、「ファイル」→「情報」→「文書の検査」→「ドキュメント検査」→「検査」→「ドキュメントのプロパティと個人情報」の「すべて削除」をクリックすると綺麗に削除されます。

 

bookmark_border[37] 「清算」と「精算」

「清算」と「精算」はよく混同して使われる言葉です。

「清算」は、「会社清算」や「関係の清算」などのように、何かを綺麗さっぱり解消させ整理することをいいます。

また「精算」は、金額を細かく計算すること、又は計算し直すことをいいます。

この様に、これらは意味が異なりますので、契約書作成の際には間違えないようにしなければなりません。

bookmark_border[35] 遅延損害金 年率14.6%の意義

「遅延損害金」とは、契約書に定めた支払期限までに支払いがなされない場合に損害賠償として相手方に支払う金銭のことで、通常は年利の形で定められます。一般に金銭を受領する側がひな型として準備する契約書には、年率14.6%と規定されていることが多い印象です。

契約交渉の中でその率を変えることはありますが、そもそも契約条件どおりにきちんと支払をするのであれば遅延損害金は発生しませんので、この部分が大きな論点になることは無いと思います。ただこれは相手方との関係によりますね。

なお、遅延損害金が規定されていない場合は、民法で規定されている「法定利率」に従いますので、支払が遅れた場合、契約書に規定されていないからと言って、遅延損害金の支払いを免れることはできず請求可能です。

ちなみに契約に規定された料率、すなわち「約定利率」が「法定利率」よりも大きい場合は、約定利率を使います。逆の場合は法定利率を使います。

法定利率の規定は以下のとおりです。

民法 第404条

  1. 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
  2. 法定利率は、年3パーセントとする。
  3. 前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、3年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする。
  4. 各期における法定利率は、この項の規定により法定利率に変動があった期のうち直近のもの(以下この項において「直近変動期」という。)における基準割合と当期における基準割合との差に相当する割合(その割合に1パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)を直近変動期における法定利率に加算し、又は減算した割合とする。
  5. 前項に規定する「基準割合」とは、法務省令で定めるところにより、各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月までの各月における短期貸付けの平均利率(当該各月において銀行が新たに行った貸付け(貸付期間が1年未満のものに限る。)に係る利率の平均をいう。)の合計を60で除して計算した割合(その割合に0.1パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)として法務大臣が告示するものをいう。

この様に、基準は年3%なのですが変動を許容する規定となっており、法務省は「令和5年4月1日以降の法定利率について」というサイトで令和8年3月末までは「3%」と公表しています。

蛇足ながら、14.6%というのは、昔の「日歩4銭(100円につき一日あたり0.04円)」から来ているそうです。(0.04円/日 X 365日 = 14.6円)その流れかどうか分かりませんが、税法上の延滞税も一定の減免はあるものの基本は14.6%です。

それから、利率の上限は「利息制限法」や「消費者契約法」に定められています。利息制限法は「金銭消費貸借契約」すなわち金銭を貸し借りするときの利率について第1条で規定しており、元本の金額により異なりますが100万円以上の場合は年15%です。なお、金銭の返済が遅れた場合の遅滞金を算出する際の利率は第4条で規定しており、金銭消費貸借契約における約定利率としてはこれ以下に抑える必要があります。ちなみに金銭を貸すことを業として行ういわゆる「営業的金銭消費貸借」の場合は、利息制限法において別の規定がありますので注意が必要です。

利息制限法 第1条

金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。

  1. 元本の額が10万円未満の場合 年2割
  2. 元本の額が10万円以上100万円未満の場合 年1割8分
  3. 元本の額が100万円以上の場合 年1割5分
利息制限法 第4条
  1. 金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が第1条に規定する率の1.46倍を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
  2. 前項の規定の適用については、違約金は、賠償額の予定とみなす。

また消費者契約法は、契約相手方が一般消費者の場合に適用され、その中で遅延損害金の上限を年率14.6%と定めています。

消費者契約法 第9条
  1. 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
    1. 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
    2. 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年14.6パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分
  2. (省略)

この様に、契約相手方が法人、団体、個人事業主、一般消費者のいずれの場合であっても、金額の多寡によらず「年14.6%」に抑えておけば法令に違反することはありませんので、金銭を受領する側としてはこの料率を契約交渉の起点とする意義は大きいと思います。

bookmark_border[33] 契約書の用紙

契約を書面で締結する際に使用する用紙ですが、通常はA4サイズの上質紙になると思います。

基本は片面印刷ですが、2ページに収まるものは両面印刷とし、またA3サイズ1枚に収まるものはそのようにして、なるべく複数の枚数に渡らないようにするのがコストが抑えられますし製本も不要で効率的です。

ただし、文字サイズを小さくし過ぎないようにすることも重要です。

紙質については、契約書は年単位で、場合によっては何十年もの期間に渡って使われますので、その間に紙面がボロボロになり原本としての役目を果たさなくなっては困りますので白の上質紙がお勧めですが、最近は再生紙であっても質が良くなっていますので、そこはあまり気にすることは無いかも知れません。

bookmark_border[32] 承継とは

「承継」とは、自身の権利義務や資産などを他者に移転することをいいます。代表的なものに「相続」があります。

相続は、人(自然人)が死亡した時点で保有していたものが相続人に帰属します。この場合、法的には全てが相続人に移転するため「包括承継」又は「一般承継」と呼ばれます。

法人の場合も、「合併」により他の会社に吸収された時点で全てがそちらに移り包括承継(一般承継)がなされます。

他方、売買や事業譲渡など、保有する権利義務や資産の一部のみを他者に移転する場合の承継は「特定承継」と呼ばれます。当事者間で何を承継するかは協議のうえ決定しますので、売買契約書や譲渡契約書において承継対象物を明記し特定することになります。

 

 

 

 

bookmark_border[31] 前二項の規定にかかわらず

契約書では良く、前の条項を否定する条件を次の条項に書くことがあります。

  1. 〇〇〇は、〇〇するものとする。
  2. 前項の規定にかかわらず、□□□の場合は□□とする。

このように「かかわらず」という文言を使い、特定の条件のもとに前項を否定します。「かかわらず」は漢字で書くと「拘わらず」ですが、契約書ではかな書きします。

次に、否定する条項が直前に2つある場合は以下のようにします。

  1. 〇〇〇は、〇〇するものとする。
  2. △△△は、△△するものとする。
  3. 前二項の規定にかかわらず、□□□の場合は□□とする。

「前二項」は、前の二つの条項を指します。これは「第1項及び前項」や「第1項及び第2項」と同義です。

「前2項」と書いても良いのですが、「第2項」と誤解され易いため、私は漢数字の「前二項」を使っています。

 

bookmark_border[29] 契約書の保管・管理

締結済みの契約書が溜まってくると、原本や電子ファイルをどのように保管・管理すれば良いか悩みます。

特に大きな組織を持つ歴史のある企業や団体の場合は、組織変更やフロア変更、管理システムの改定もあるでしょうから、中々統一的なルールに基づいて台帳管理したり、原本や電子ファイルを保管したりするのは難しそうです。電子ファイルは共用ストレージで保管できても、原本となると当時の契約担当者の机の引き出しに入れっぱなしになっていたり、紛失してしまったりと、色々と苦労されていると思います。

なお、契約書の保管期間は、雇用関係、会計・税務関係、会社法関係でそれぞれの法令によって個別に定められており、最長のもので契約終了後10年です。そのため、各企業・団体では通常、それに準じた規程を設けていると思われます。また、相手方との間で契約不履行等により裁判沙汰になった場合、その契約が書面で締結されているとすると、証拠として認められるのは原本です。それをPDFに落としたものやコピーしたものは、それが偽造されたものでないことを証明できない限り、原則として証拠にはなりません。

そのため、今後は書面締結ではなく、なるべく電磁的方法(電子署名)を使って契約を締結するのが良いと思う次第です。

 

 

 

 

bookmark_border[28] 権利義務の譲渡禁止

「権利義務の譲渡禁止」というのは、契約上の地位や権利義務を第三者に譲渡するのを禁止することを言います。契約相手方が突然変わってしまったのでは契約履行に支障をきたしますし、その契約が悪い人に譲渡されてしまうと予期しないリスクが発生してしまいます。

そのため「契約上の地位や権利義務の第三者への譲渡」を基本的に禁止しておき、特別な事情(たとえば事業譲渡)による場合など譲渡しないと契約履行ができないこともありますので、事前に契約相手方から書面での同意を得ることを条件として譲渡可能とするのが一般的です。そして、合理的な理由が無く拒否できないという条件を付ける場合があります。

なお、法人の場合は「合併」、個人の場合は「相続」のように、法的に権利義務が承継されるケースがあります。これらは「譲渡」ではありませんので普通は上記制限は受けないのですが、国際契約ではこの様な場合であっても相手方の事前同意が必要としているものがありますので注意が必要です。

 

 

bookmark_border[27] 損害賠償

契約書には必ずと言って良いほど「損害賠償」の条件が規定されます。

これは、一方の当事者(有責当事者)が契約違反をした場合に、相手方に発生した損害を有責当事者が賠償する義務でもあり、また損害を受けた側が有責当事者に賠償請求できる権利でもあります。

ここで重要なのは損害賠償の範囲です。一般的なのは「通常損害」や「直接損害」のみを賠償の範囲とし、その他、「特別損害」「間接損害」「副次的損害」などは賠償範囲からは除外するように定めます。もっとも、これらの用語は法的には明確に定義されていませんので、何が通常で何が特別か、何が直接で何が間接かは、実際に損害賠償請求する際に、相手方と争いになることが多いと思います。

ひとつの考え方としては、相手方の契約違反(債務不履行)により、こちら側に直接的に生じた損害を「直接損害」とし、たとえば機会損失や逸失利益(相手方の契約違反がなければ得られたであろう利益)などは「間接損害」として整理することもできます。とは言え、これらの損害が契約違反と因果関係が強い場合はいずれも「通常損害」になり得ますし、因果関係が弱かったり、普通では発生を想定できない損害は「特別損害」となり得ます。

契約書には全てのケースを列記することはできませんので、曖昧な用語で規定するのは仕方無いとして、外すべきものは明示することが重要かと思います。なお、損害賠償額の上限を定めることもあり、その場合は契約額の総額や契約履行において実際に支払われた金額を上限額とすることが一般的かと思います。

ちなみに契約に損害賠償の条件を定めない場合は、民法第415条、416条に基づき賠償請求することになります。

(民法)

第415条(債務不履行による損害賠償)

  1. 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
  2. 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
    1. 債務の履行が不能であるとき。
    2. 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
    3.  債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

第416条(損害賠償の範囲)

  1.  債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
  2.  特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

bookmark_border[26] 基本契約と個別契約

商品の売買や業務委託など、取引が継続的に行われたり又は断続的に行われる場合、その都度、全ての条件を網羅した契約を一から締結していたのでは効率が悪いということもあり、全ての取引に共通に適用される条件と、個々の取引にのみ適用される条件に分け、前者を「基本契約」として初めに締結し、後者を「個別契約」として取引の都度締結するということが行われます。

売買の場合は「売買基本契約書」「売買個別契約書」などとなりますが、個別契約書という形では締結せずに、「注文書」「注文請書」をセットにして個別契約として扱うケースが多いかと思います。ちなみに個別契約には、商品名(仕様)、数量、価格、納期、納地などが規定されます。

業務委託の場合は「業務委託基本契約書」「業務委託個別契約書」という形が一般的ですが、やはり売買と同様、個別契約は「注文書」「注文請書」で行うケースもあります。

この様に、一般条件を基本契約に規定しておくことで、取引の都度、条件協議を行う必要がなく、安定した取引を行うことができるというメリットもあります。