bookmark_border[8] 管轄裁判所

日本の契約書には、必ずと言っていいほど第一審の管轄裁判所を明記します。これは民事訴訟法第11条を根拠としています。

第11条(管轄の合意)
  1. 当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。
  2. 前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。
  3. 第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

契約当事者間で管轄裁判所を合意して定めると、原則としてその裁判所でしか訴訟を提起できなくなります。なおその合意は、書面又は電磁的記録(たとえば電子メール)でなければならず、口頭での合意は不可です。

具体的な管轄裁判所ですが、契約当事者の所在地が関東であれば「東京地方裁判所」とするケースが多いと思いますし、関西であれば「大阪地方裁判所」を選ぶと思います。地方裁判所は、北海道には4か所、その他の都府県には各1か所ずつあります。

それでは、契約当事者の片方が東京、もう一方が大阪の場合はどうでしょうか。お互いに「東京地方裁判所」「大阪地方裁判所」を主張していたのでは、契約は纏まりません。そのときは、よほど相手方が重要な取引先で譲歩せざるを得ない場合を除き、「被告の本店所在地を管轄する地方裁判所」などとするのが良いと思われます。

ところで、管轄裁判所を契約当事者間で合意していない場合は、民事訴訟法及び裁判所法の定めに従って管轄裁判所が決まります。

  • 原告は、原則として被告の住所地を管轄する裁判所に裁判を起こすべきとされていますが、例外があり,たとえば不法行為に基づく損害の賠償を求める裁判では,不法行為が行われた土地を管轄する裁判所に対しても裁判を起こすことができますし、不動産に関する裁判では、問題となる不動産の所在地を管轄する裁判所にも裁判を起こすことができます。
  • 140万円以下の請求に係る民事事件については簡易裁判所が、それ以外の一般的な民事事件については地方裁判所が、それぞれ第一審裁判所となります。

bookmark_border[7] NDAにおける「秘密情報」とは

今回は、企業間で頻繁に締結されるNDA(Non-Disclosure Agreement:秘密保持契約書)における「秘密情報」について触れてみたいと思います。

NDAは、通常、当事者間で本格的な取引に入る前の検討段階で締結されます。開示された「秘密情報」を目的外に使用したり、第三者へ開示・漏洩しないよう規定しています。なお、NDAには当事者の一方だけが秘密保持義務を負う「片務契約」と、双方ともに秘密保持義務を負う「双務契約」があります。

ここで重要なのは、何が「秘密情報」かということです。秘密保持義務の対象物が明確になっていないと、秘密情報として管理をすることができません。

そこでNDAでは以下のように「秘密情報」を定義することが多いです。

  1. 「秘密情報」とは、本契約の存在及び内容、並びに本契約の締結及び履行に関連して開示され又は知り得た相手方の技術上又は営業上の情報であって、相手方が秘密であることを明示したものをいう。なお、口頭又は映像その他の方法により開示された情報については、その開示の時に秘密である旨を口頭で伝えられた場合、かつ開示後30日以内に当該情報の概要を記載し秘密である旨を表示した書面が交付された場合に限り、開示の時から秘密情報に含まれるものとする。
  2. 前項の規定にかかわらず、次の各号のいずれかに該当する情報は、秘密情報に該当しない。
    • 開示された時に既に受領者が保有していた情報
    • 開示された後、受領者が秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報
    • 開示された後、当該情報に関係なく受領者が独自に取得し又は創出した情報
    • 開示された時に既に公知であった情報
    • 開示された後、受領者の責めに帰し得ない事由により公知となった情報

第1項は、受領者が管理し易いように、開示者は、秘密情報に「秘密」である旨を明示しましょうとの趣旨の規定です。ただ「受領者が管理し易いように」ということであれば、秘密情報には「秘密」表示だけでなく、根拠となるNDAを特定するための情報(そのNDAの締結年月日など)も明示するのが良いと思うのですが、そこまで規定すると開示者の義務や負担が増えますので、ここは受領者の管理に任せるということかと理解しています。

第2項は、秘密情報として扱わないものの例外事項です。これらは全て受領者側の状況ですが、特に「開示された時に既に受領者が保有していた情報」や開示された後、当該情報に関係なく受領者が独自に取得し又は創出した情報」については、本当にそうかどうかは受領者しか知り得ません。

そこで、第2項は「前項の規定にかかわらず、次の各号のいずれかに該当することを受領者が証明した情報は、秘密情報に該当しない。」と規定することもあります。受領者に証明させるもので抑止力としては良いのでしょうが、ただ、両者間で争いになった場合、受領者は自らを守るために証明をすることになりますので、特に「証明」について契約に規定していなかったとしても結果は変わらないと思われます。

 

bookmark_border[6] 契約不適合責任

前回からの続きです。

お客様がお店から商品を受け取ったあと、その商品に不具合が見つかった場合、その扱いについて事前に約束していない場合は、民法の規定に従ってお店が責任を負います。

第562条(買主の追完請求権)

  1. 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
  2. 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

第563条(買主の代金減額請求権)

  1. 前条第1項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
  2. 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
    1. 履行の追完が不能であるとき。
    2. 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
    3. 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
    4. 前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
  3. 第1項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。

このように、買主であるお客様は、売主であるお店に対して「修補(修繕)」「代替物引渡し」「不足分引渡し」などの請求ができ、それがなされない場合は「代金減額」の請求ができます。なお、お客様は商品の不具合を知ったときから1年以内にお店に通知する必要があります。

第566条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)

売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。

実際にコンビニやスーパーで買った商品に不具合や不足があった場合は、お店は、これら法律の規定に沿って商品を交換したり、不足分を渡したり、場合によっては返品・返金をしてくれますね。

bookmark_border[5] 任意規定

前回からの話の続きです。

お客様がお店から商品を受け取ったあと、その商品に不具合が見つかった場合は、お店は交換や返品・返金などの責任を負います。

でもコンビニやスーパーで商品を購入する際、いちいちお客様とお店との間で、商品に不具合があったときの対応の仕方は決めませんよね。そこで、契約で約束していないことは、日本における契約法である「民法」の規定に従うことになります。

一般的に、当事者間で定めた契約条件の方が、民法の規定よりも優先して適用されます。この様に、法令よりも契約が優先する場合の規定は「任意規定」と言います。これに対し、法令の方が優先する場合、その法令の規定を「強行規定」と言います。たとえば刑法が代表的なもので、当事者間の契約で刑法に違反する条件を定めたとして、それは無効となります。

ちなみに民法においても「強行規定」は存在します。たとえば民法第90条の「公序良俗違反」はその代表例です。これに反する契約を締結しても無効です。闇バイトに関する契約(強盗にかかる業務委託契約でしょうか)も、公序良俗に反するということで契約自体が無効になるものと思われます。

ところで、民法は「総則」「物権・担保物件」「債権」「親族」「相続」の5つのパートから構成されています。このうち契約に関係するのは、「債権」のパートです。特にこれを「債権法」とも呼びます。

なお民法は、一般人(法律用語では「自然人」といいます。)間の契約だけでなく、法人間、法人・自然人間の契約にも適用されます。商人(法人や個人事業主などです。)同士の契約においては、民法よりも商法が優先されて適用されますが、商法の適用項目はとても少なく、また商人同士の契約では、通常、契約書に詳細条件が規定されますので、一般論として商取引においては商法の規定が適用されるケースはあまりないものと思われます。

次回は、冒頭の「お客様がお店から商品を受け取ったあと、その商品に不具合が見つかった場合」の措置について、民法でどのように規定されているのかを解説する予定です。

 

bookmark_border[4] 「契約」とは

そもそも「契約」とは何でしょうか?「契約」とは、複数の当事者間で交わされる、法的効力のある約束のことです。

民法第522条には、次のように定められています。

第522条

  1. 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
  2. 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方法を具備することを要しない。

すなわち、契約は相手方への「申込み」と、それに対する相手方からの「承諾」があれば成立します。原則として「書面」や「電磁的方法」(電子署名など)によらなくても契約が成立することになります。

なお、「法令に特別の定めがある場合を除き」ということですから、法令に特別の定めがある場合は、書面等での締結が必要です。たとえば「保証契約」がその代表的なもので、このように契約の成立に一定の形式が必要とされる契約を「要式契約」、それ以外の契約を「不要式契約」と呼びます。

ただ、不要式契約であっても、普通は「契約書」などの書面等を取り交わします。これは、契約の履行のための備忘録的な目的のほかに、後々、当事者間で争いになった場合に契約書が重要な証拠となるためです。契約書が無いと「言った、言わない」など両者の言い分が平行線になり、裁判所でも判断が難しくなります。

私たちは、普段の生活の中でもいろいろなところで「契約」をしています。たとえばコンビニやスーパーで買い物をする際、レジの店員に商品を出せば「これを買います。」という黙示的な意思表示(申込み)になりますし、お店がそれを拒絶せずにレジに通せば「売ります。」という意思表示(承諾)となります。

その場合、契約としては「売買契約」を締結したことになり、お客様が代金を支払ってお店がそれを受領してお客様が商品を受け取れば、それでこの売買契約の履行が完了します。

ここで「契約の履行」というのは、契約で定められた各当事者の義務や責任を果たしたり、権利を行使することです。

bookmark_border[3] 以下「甲」という。

ひとつの契約書の中で同じ言葉が繰り返し使われるときは、最初にその言葉が出てきたときにそれを簡単な単語に置き換え、以後はその単語を使うことで契約書を簡潔にし読み易くします。代表的な例としては、契約書の冒頭でそれぞれの契約当事者名を甲、乙などに置き換え、契約本文中にはいちいち契約当事者名を書かずに、甲、乙で済ませます。

例:○○株式会社(以下「甲」という。)と△△株式会社(以下「乙」という。)は、甲の行う□□業務に関し、次のとおり業務委託契約(以下「本契約」という。)を締結する。

契約当事者のうち、どちらを「甲」でどちらを「乙」にするかは自由ですが、お客様を「甲」にしたり、業務委託契約書の場合は委託側を「甲」にするのが一般的です。

当事者が3者以上いる場合は、甲(こう)、乙(おつ)、丙(へい)、丁(てい)、戊(ぼ)、己(き)、庚(かい)・・・などの順で割り振ります。以前、7者協業契約を担当した際はこのようにしましたが、そもそも協業契約の場合は全ての当事者が等しく責任を負う場合が多いため、せっかくこのように割り振っても、契約本文中では「全ての当事者は」「各当事者は」「いずれの当事者も」などの表現に留まり、甲~庚への割り振りは余り意味がないこともあります。

ただ、契約書末尾の署名欄には、「甲 〇〇株式会社」「乙 △△株式会社」などと書きますので、ここでは再度、甲~庚が現われます。

以上、契約当事者を省略するケースを説明しましたが、この他の例として業務委託契約書では、委託業務を列記し(以下「本業務」という。)などと纏める使い方もあります。

なお、「以下「〇〇」という。」と書く場合、人によって

  • 以下、「〇〇」という。
  • 以下、「〇〇」という
  • 以下「〇〇」という
  • 以下、〇〇という。
  • 以下、〇〇という
  • 以下〇〇という

と様々で、趣味の世界と言ってしまえばそれまでなのですが、省略語を明確にするためには鉤括弧で括るのが良いですし、「以下」の次は鉤括弧がくるため読点は不要と思われ、「という」は用言止めで句点が必要と思われることにより、私が一から契約書を書く場合は「以下「〇〇」という。」としています。

 

bookmark_border[2] 「及び」「並びに」「又は」「若しくは」の使い方

今日は、前回の記事の中で例に挙げた「及び」「並びに」「又は」「若しくは」の使い方について紹介したいと思います。

  • A 及び B: AとBを単純に同列でつなげます。「A 並びに B」でも良さそうですが、「及び」が使われない文には「並びに」は使えないとされています。ちなみに、CをABの後につなげる場合は「A、B及びC」とし、「及び」は最後の接続に使います。
  • A 及び B 並びに C : 「(A and B)and C 」という意味です。AとBは同列につながり、更にそれらのかたまりとは別のカテゴリ、又は上位のカテゴリのCをつなげるときに「並びに」を使います。たとえば「ツキノワグマ及びヒグマ並びにサル」の様になります。
  • A 又は B: AかBのいずれかという意味です。
  • A 又は B 若しくは C:「A or (B or C)」という意味です。「及び」「並びに」では「並びに」が上位にきましたが、「又は」「若しくは」では逆に、「又は」の方が上位にきます。たとえば「サル又はツキノワグマ若しくはヒグマ」の様になります。

以上は比較的単純な例ですが、契約書には「及び」や「又は」が多用されており、更に「並びに」「若しくは」が加わると一度読んだだけでは理解できず誤用しがちですので、割と神経を使う言葉です。

bookmark_border[1] 契約書における表記方法(漢字か平仮名か)

契約書の原案を作成する際、ある言葉を漢字で表記するのが良いのか平仮名の方が良いのか、迷うことがあります。

たとえば、「甲及び乙は」と表記する契約書があれば、「甲および乙は」と表記する契約書もあります。

同じ契約書の中でどちらかに統一されていれば、どちらを使っても良さそうに思いますが、「公⽤⽂における漢字使⽤等について(平成22年11⽉30⽇)」の1(2)オには、原則として接続詞は平仮名で書くものの、「及び、並びに、又は、 若しくは」の4語は原則として漢字で書く旨が記載されています。

ちなみに契約書に良く出てくる接続詞に「ただし」がありますが、上記基準に従えば、これは平仮名表記となります。

なお、契約書は公用文では無いのですが、契約相手方と契約書の解釈で争いになった場合に極力疑義が生じることのないよう、公用文や法令における表記法を使うことが推奨されています。