[10] 係争解決方法

契約の履行を巡って、当事者間で争いになった場合、まずは両者間で良く話し合い、それでも解決しない場合は、あらかじめ両者で決めておいた係争解決方法で解決することになります。

日本企業同士の契約であれば、合意した管轄裁判所に訴訟を提起し、裁判所を通じて途中で和解したり、また最悪の場合には判決、さらには上級裁判所への上訴(控訴・上告)ということもあり得ます。

他方、国際契約の場合は少し厄介で、準拠法にも関わってきます。仮に準拠法を第三国法とした場合、その地で「裁判(Litigation)」をするのか良いかどうかは各当事者の考えによります。裁判所は、他国の企業同士の争いについて丁寧かつ公平に審理してくれるのかどうか・・・という懸念もあります。裁判地を被告国に定めた場合はそれで良いでしょうが、準拠法が第三国法のままですと、裁判地と異なるため少し面倒かも知れません。

そこで、準拠法を第三国法と定めた場合、係争解決方法をその地での「仲裁(Arbitration)」と定めることが良くあります。仲裁では裁判所は関与せず、仲裁人が両者を取り持って解決に導きます。また、仲裁ルールは「ICC(International Chamber of Commerce:国際商業会議所)」のルールが適用されることが多いです。このルールもあらかじめ当事者間で合意しておきます。

仲裁では完全に秘密が保たれますので、取引自体を公にされたくないとか、また機微な情報を扱う場合などは訴訟よりは安全と思われます。

さらに仲裁の大きなメリットとしては、強制執行がし易いという点があります。強制執行とは、裁判での判決や仲裁での判断が下った後、当事者がその結果に従わない場合に、執行裁判所が強制的に従わせるというものです。第三国での裁判判決の場合は、敗訴当事者の国で強制執行を認めることを制限するケースがあります。他方、第三国での仲裁判断の場合は、比較的締約国が多い国際条約である「ニューヨーク条約」に基づき、強制執行を認める国がほとんどです。

せっかく裁判で勝訴したのに、実が得られなければ戦い損になってしまいます。その意味でも仲裁での係争解決が良いのですが、デメリットとして、仲裁人報酬がとても高く、裁判よりもずっと高額な費用がかかりますので、よほど損害額が大きくなければこの方法は現実的ではないかも知れません。また仲裁の場合は、前もって両者間で「係争解決方法は〇〇における仲裁とする。」旨をきちんと合意しておく必要があります。

契約締結時の妥協の産物である「第三国の準拠法」「第三国での仲裁」は、実際にそれを使う場面では特に手間や費用の面で大きな負担になることが予想されます。でも契約履行時にそこまでの争いになることは滅多にないため、まずは「契約締結」を目標とする段階でその様に決めたとしても、それはそれで仕方無いとも思います。

 

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