bookmark_border[29] 契約書の保管・管理

締結済みの契約書が溜まってくると、原本や電子ファイルをどのように保管・管理すれば良いか悩みます。

特に大きな組織を持つ歴史のある企業や団体の場合は、組織変更やフロア変更、管理システムの改定もあるでしょうから、中々統一的なルールに基づいて台帳管理したり、原本や電子ファイルを保管したりするのは難しそうです。電子ファイルは共用ストレージで保管できても、原本となると当時の契約担当者の机の引き出しに入れっぱなしになっていたり、紛失してしまったりと、色々と苦労されていると思います。

なお、契約書の保管期間は、雇用関係、会計・税務関係、会社法関係でそれぞれの法令によって個別に定められており、最長のもので契約終了後10年です。そのため、各企業・団体では通常、それに準じた規程を設けていると思われます。また、相手方との間で契約不履行等により裁判沙汰になった場合、その契約が書面で締結されているとすると、証拠として認められるのは原本です。それをPDFに落としたものやコピーしたものは、それが偽造されたものでないことを証明できない限り、原則として証拠にはなりません。

そのため、今後は書面締結ではなく、なるべく電磁的方法(電子署名)を使って契約を締結するのが良いと思う次第です。

 

 

 

 

bookmark_border[28] 権利義務の譲渡禁止

「権利義務の譲渡禁止」というのは、契約上の地位や権利義務を第三者に譲渡するのを禁止することを言います。契約相手方が突然変わってしまったのでは契約履行に支障をきたしますし、その契約が悪い人に譲渡されてしまうと予期しないリスクが発生してしまいます。

そのため「契約上の地位や権利義務の第三者への譲渡」を基本的に禁止しておき、特別な事情(たとえば事業譲渡)による場合など譲渡しないと契約履行ができないこともありますので、事前に契約相手方から書面での同意を得ることを条件として譲渡可能とするのが一般的です。そして、合理的な理由が無く拒否できないという条件を付ける場合があります。

なお、法人の場合は「合併」、個人の場合は「相続」のように、法的に権利義務が承継されるケースがあります。これらは「譲渡」ではありませんので普通は上記制限は受けないのですが、国際契約ではこの様な場合であっても相手方の事前同意が必要としているものがありますので注意が必要です。

 

 

bookmark_border[27] 損害賠償

契約書には必ずと言って良いほど「損害賠償」の条件が規定されます。

これは、一方の当事者(有責当事者)が契約違反をした場合に、相手方に発生した損害を有責当事者が賠償する義務でもあり、また損害を受けた側が有責当事者に賠償請求できる権利でもあります。

ここで重要なのは損害賠償の範囲です。一般的なのは「通常損害」や「直接損害」のみを賠償の範囲とし、その他、「特別損害」「間接損害」「副次的損害」などは賠償範囲からは除外するように定めます。もっとも、これらの用語は法的には明確に定義されていませんので、何が通常で何が特別か、何が直接で何が間接かは、実際に損害賠償請求する際に、相手方と争いになることが多いと思います。

ひとつの考え方としては、相手方の契約違反(債務不履行)により、こちら側に直接的に生じた損害を「直接損害」とし、たとえば機会損失や逸失利益(相手方の契約違反がなければ得られたであろう利益)などは「間接損害」として整理することもできます。とは言え、これらの損害が契約違反と因果関係が強い場合はいずれも「通常損害」になり得ますし、因果関係が弱かったり、普通では発生を想定できない損害は「特別損害」となり得ます。

契約書には全てのケースを列記することはできませんので、曖昧な用語で規定するのは仕方無いとして、外すべきものは明示することが重要かと思います。なお、損害賠償額の上限を定めることもあり、その場合は契約額の総額や契約履行において実際に支払われた金額を上限額とすることが一般的かと思います。

ちなみに契約に損害賠償の条件を定めない場合は、民法第415条、416条に基づき賠償請求することになります。

(民法)

第415条(債務不履行による損害賠償)

  1. 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
  2. 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
    1. 債務の履行が不能であるとき。
    2. 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
    3.  債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

第416条(損害賠償の範囲)

  1.  債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
  2.  特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

bookmark_border[26] 基本契約と個別契約

商品の売買や業務委託など、取引が継続的に行われたり又は断続的に行われる場合、その都度、全ての条件を網羅した契約を一から締結していたのでは効率が悪いということもあり、全ての取引に共通に適用される条件と、個々の取引にのみ適用される条件に分け、前者を「基本契約」として初めに締結し、後者を「個別契約」として取引の都度締結するということが行われます。

売買の場合は「売買基本契約書」「売買個別契約書」などとなりますが、個別契約書という形では締結せずに、「注文書」「注文請書」をセットにして個別契約として扱うケースが多いかと思います。ちなみに個別契約には、商品名(仕様)、数量、価格、納期、納地などが規定されます。

業務委託の場合は「業務委託基本契約書」「業務委託個別契約書」という形が一般的ですが、やはり売買と同様、個別契約は「注文書」「注文請書」で行うケースもあります。

この様に、一般条件を基本契約に規定しておくことで、取引の都度、条件協議を行う必要がなく、安定した取引を行うことができるというメリットもあります。

 

bookmark_border[24] 特許ライセンス契約

「特許ライセンス契約」は先日解説したライセンス契約の一種なのですが、特徴的なところがありますので、今回はこの契約について解説します。

そもそも「特許」とは何かといいますと、まず「発明」をしてそれを特許庁に特許出願し、特許庁で特許要件(新規性や進歩性その他の形式的要件)の審査を経て登録され権利化されたものと、権利化前の特許出願中のものを総称していう場合が一般的かと思います。

ライセンスですから、特許権(および特許出願中であれば特許権を得る権利)を相手方に譲渡するのではなく、その特許を実施する権利を許諾するというものです。

「実施」というのは利用するということで、具体的にはその特許技術を利用して開発・製造した製品やサービスを販売することです。単に研究開発段階で留まっている状態では、通常、実施とはみなされません。

なお、競合企業同士では、互いの特許を実施できる「特許クロスライセンス契約」を締結することがあります。これは相互に自社の特許を相手方にライセンスするための契約で、両者の特許力のバランスによって対価が決まってきます。バランスが取れていれば無償、すなわちフリークロスライセンスになりますし、バランスが取れていない場合は有償のクロスライセンスまたはクロスではなく片方向のライセンスとなります。

それから、特許の世界では訴訟となるケースが多く、競合企業同士ではライセンス条件が合意できない場合とか、またパテントトロールといって、自分では事業をせずに他者から特許権を購入しそれを元に事業会社に対して攻撃する(最初は条件交渉を行い決着がつかない場合は提訴のうえ和解に持ち込み収益を図る)というビジネスモデルも存在しています。

契約の話から少し外れてしまいましたが、事業会社としては常に世の中の特許状況を見ながら知財リスクを判断することが重要です。

 

 

bookmark_border[23] 「契印」とは

書面で締結する契約書が2枚以上に渡る場合、それら複数のページで一つの契約書を成すことを証するためにページの境目に押印しますが、それを「契印」といいます。

通常は、契約書の左側を2か所ホッチキスで止め、各ページの見開き部分に前後のページに渡るように押印します。それぞれの当事者の押印位置(上か下か)は特に決まりはありませんが、「甲」「乙」「丙」・・・の順に上から下に押していくのが一般的です。

なお、簡易的な方法として製本テープを使って製本する場合は、表紙と裏表紙の製本テープと書面の境目に押印します。

この様に「契印」をすることで、契約締結後のページの差し替えを防ぐこともできます。

ちなみに国際契約では締結は押印ではなく署名(サイン)で行いますので「契印」は行わず、その代わりに各ページの右下に全当事者のイニシャルサインをすることが多いです。

bookmark_border[22] 約款

契約書に似たものに「約款」があります。これは、例えばあるサービスを不特定多数の者(自然人又は法人)に対して提供する場合に、あらかじめサービス提供者が条件を定めておき、それを書面(又は電磁的記録)にしたものをいいます。

サービスを受けたい者が約款の内容を確認し、その条件で良ければ書面やネット等で同意(申し込み)の意思表示を行い契約締結となりますので、わざわざ契約書を準備する必要が無いのが利点です。しかしながら、通常はサービスを受ける人ごとに契約条件を変える(定款の内容を変更する)ことはしませんので、サービス提供者に有利な条件になっているものもあり、定款の内容を良く理解したうえで申し込みをする必要があります。

なお、約款の条件を一部変更したい場合は、別途「覚書」で条件変更について合意することもあります。特にサービスを受ける側が企業や団体の場合は、そのように対応することが行われます。

一方、サービスを受けるのが個人の場合は、サービス提供者としては「標準条件でサービスを受けてください。それがダメであれば申し込みをしないでください。」ということかと思います。

ちなみに「定型約款」に関する民法の規定については、法務省の「約款(定型約款)に関する規定の新設」で解説されています。また、一般消費者を保護するための消費者契約法も関係しますので、その点は別の機会に触れたいと思います。

 

 

 

 

bookmark_border[21] ボリュームディスカウント

ライセンス契約において「ボリュームディスカウント」とは、ライセンス対象物をたくさん利用すればするほど、ランニングロイヤルティの単価を安くするというものです。

例えばソフトウェアを対象としたライセンス契約において、ライセンシーがそのソフトウェアを搭載した製品を販売した場合、1台あたり100円のロイヤルティをライセンサーに支払うという条件が定められていたとします。その場合、その製品が100台売れればロイヤルティは1万円ですし、1万台売れれば100万円です。

しかしながら、ライセンシーが何台対象製品を販売しようとライセンサーとしては余分な手間はかからないですし、販売台数に関係なくロイヤルティ単価が同じであればライセンシーとしても販売拡大のモチベーションは上がりません。

そのためライセンス契約や売買契約には、ボリュームディスカウントが設定されることがあります。

一例として、ライセンス契約におけるロイヤルティ単価を具体的な数字で説明しますと、

1台め~100台め: 1台あたり100円

101台め~200台め: 1台あたり90円

201台め~300台め: 1台あたり80円

この様な条件の場合、対象製品を250台販売した場合は、ロイヤルティは次のように計算されます。

100台x100円 + 100台x90円 + 50台 x 80円 = 23,000円

ここで、1台めから200台めまでのロイヤルティ単価が全て80円にはならないことに注意してください。

一方、ロイヤルティが次のような条件の場合は、

~100台: 1台あたり100円

~200台: 1台あたり90円

~300台: 1台あたり80円

110台販売した場合は、110台x90円 = 9,900円となり、100台販売したときの 100台 x 100円=10,000円よりも安くなってしまいますね。

この様な逆転現象が起きないように、またロイヤルティを計算する際に誤解が生じないように、契約書には条件をきちんと明確に定めておくことが重要です。

 

bookmark_border[20] ライセンス契約

「ライセンス契約」とは、使用許諾契約(又は利用許諾契約)のことで、一方の当事者が保有する無形資産を他の当事者に使用(又は利用)させるための契約です。

ここで「使用」と「利用」の違いを説明しますと、使用に比べて利用の方が範囲が広い概念です。利用は「使用」を初め、「複製」「改変」「頒布」など様々な使い方が含まれます。もちろん利用の範囲は契約で規定されますので、それを超えた使い方は認められません。

しかしながら契約書に規定された利用範囲にかかわらず、契約書の表題として「使用許諾契約」「利用許諾契約」を使い分けている契約はそれほど多くないと感じています。そのため、ここではそれらを総称して「ライセンス契約」ということにします。

ライセンス契約の肝は、「許諾する対象物と利用範囲」の特定です。対象物は、多くの場合ソフトウェアや特許、ノウハウなどの知的財産権です。なお、特許の場合は「利用」ではなく「実施」という言葉を使います。また契約当事者は、許諾する側を「ライセンサー」、許諾を受ける側を「ライセンシー」といいます。

許諾する権利ですが、「使用権」「複製権」「改変権」「頒布権」のほかに、第三者に再許諾するための「再許諾権」が設定される場合があります。それから、許諾された権利はそのライセンシーだけが使えるのか(独占的許諾)、そうではなくライセンサーは同様の権利を他のライセンシーに許諾し、そのライセンシーも使えるのか(非独占的許諾)も契約に規定されます。通常は、ほぼ非独占的許諾です。

また、許諾した権利をライセンサー自身が使えるように念のため明記したり、特に国際契約では許諾地域も明記したりします。

さて、権利を許諾するからにはそれに見合った対価が必要ですね。その対価のことを「使用料」「利用料」「実施料」「ライセンス料」「ロイヤルティ(ロイヤリティ)」など、様々な言い方があります。実施料は、上述のとおり特許権の許諾に対する対価です。ここでは「ロイヤルティ」という表現を使うことにします。

ロイヤルティにはいくつか種類があり、代表的なものに「ランニングロイヤルティ」があります。これは、許諾された対象物を頒布(製品に組み込んで販売)した数や売上に応じて支払われる対価です。しかしながら、ランニングロイヤルティの場合は、定期的に(例えば四半期毎に)ライセンシーがライセンサーに販売実績報告をして、ライセンサーが請求書を発行し、ライセンシーが支払うというオペレーションが必要で、また販売実績報告はライセンシーの自己申告であることから、ライセンサーがその内容を実地監査するなど結構手間と費用がかかる方法です。

従って、ランニングロイヤルティ方式とする代わりに、契約締結後に一括でロイヤルティを支払う「一括金」方式があります。この場合は、あらかじめ販売数を想定して金額を決めますので、実際の販売数が想定数に満たなければライセンシーに不利になりますし、逆の場合はライセンサーに不利になります。またその中間の方式として「一時金+ランニングロイヤルティ」方式もありますが、いずれの方式を採るかはもっぱらライセンサー主導で決まることが多いと思います。

この様に、ライセンス契約は無形資産自体の財産権を相手方に移転させることなく、その利用を許諾するものです。