bookmark_border[18] 収入印紙

契約書の種類によっては、収入印紙が必要なものがあります。以前少し触れましたが、「請負契約」には印紙が必要ですし、「準委任契約」には印紙は不要です。

国税庁が公表している印紙税額表はこちらです。(令和5年4月現在)

この様に印紙が必要な文書、すなわち「課税文書」は20種類あり、それぞれ「1号文書」「2号文書」・・・「20号文書」と呼ばれています。なお、これら以外の文書は印紙が不要な「不課税文書」です。

例えば、請負契約は2号文書、継続的取引の基本契約は7号文書です。

収入印紙は文書に貼付するだけではだめで「消印」という作業が必要です。これは印紙と文書にかかるように割印をすることで、印紙税を納税したという証になります。税務署は、たまに実地で印紙税調査を行い、印紙税をきちんと納税しているか(課税文書に収入印紙を貼付して割印したか)を確認します。ここで漏れがあった場合は、それが悪質と判断されると3倍の過怠税が課されます。

ところで印紙税額表の一番右に「主な非課税文書」という欄があります。これは「課税文書」ではあるけど印紙税額が「0円」という文書です。

このように「非課税文書」と「不課税文書」は、ややこしいですが意味が異なります。

ちなみに印紙税は紙の文書を作成したことに対する課税ですので、契約を電子署名を使って電磁的に締結した場合は、そもそも印紙税はかかりません。

 

 

bookmark_border[17] 「Back to Back」の重要性

例えばA社から業務委託を受けて、その業務をB社に再委託する案件があったとします。その場合、①A社/自社間、➁自社/B社間の2本の業務委託契約を締結することになります。

ここで①の契約で受託者(自社)が負う責任と、➁の契約で受託者(B社)が負う責任を比べたときに、仮に①で自社の責任が重い(=➁でB社の責任が軽い)とすると、その責任の差は全て自社が負うことになります。

そうならないようにするためには、①と➁の契約における受託者の責任を同等にする必要があります。これを「Back to Back」による条件設定と言います。

相手方との契約交渉においてすんなり条件が決まれば良いのですが、どの当事者もなるべく自分の責任を軽くしたいという意識が働きますので、そのせめぎ合いの中で中間に立つ自社にとってリスクミニマムにする努力が必要です。

bookmark_border[16] 知的財産権

「知的財産権(略して知財権)」とは、一般に特許発明・商標・意匠・著作物・ノウハウ等の知的財産にかかる権利のことをいいます。通常、知財権を扱う契約書にはその定義が規定されていますので、実際はそれぞれの契約でその範囲が異なります。

「知財権を扱う契約書」には実に様々なものがあり、(知財権にかかる)譲渡契約書・ライセンス契約書や、また業務委託契約書にも、委託業務を履行する中で作られた成果物の知財権の帰属や利用について規定されたものがあります。

業務委託契約では、受託者が制作した成果物の媒体の「所有権」は委託者に移転するものの、その成果物に含まれる「知財権」は委託者に移転しないケースがあります。たとえば委託業務がソフトウェア開発の場合、プログラムコードを格納するSDカードやUSBメモリなどのストレージの所有権は委託者に渡し、プログラムコードの著作権自体は受託者に留保するというケースです。その場合、受託者は他の委託者から同様の業務委託を受けるとそのプログラムコードをそのまま流用できるという利点があります。

ただし、著作権が受託者に残る場合は委託者は勝手にプログラムを利用することができませんので、契約書には利用条件が規定されます。

上記は極端な例ですが、よく見られるのが

  1. 委託業務の履行において新たに生成された知財権は委託者に帰属
  2. 委託業務の履行前から受託者が有する知財権、及び委託業務とは関係なく受託者が生成した知財権はそのまま受託者に残る
  3. 委託者は上記1と組み合わせて上記2を利用できる

という条件です。この条件であれば、委託者は対価に見合った権利を得られることになります。

上に挙げたプログラムコードの例では「所有権」と「著作権」の関係が分かり難いかも知れませんが、例えば私たちが書店で本を購入した場合、本自体の「所有権」は購入者に移転しますが、その本の内容(著作物)にかかる「著作権」は購入者には移転せず著者又は出版社に残るため、購入者はその本を複製して販売することができません。もっとも所有権は購入者にありますので、原則としてそのままの形で他者に転売することは可能です。

bookmark_border[15] 契約の変更

一旦契約を締結するとそれが終了するまで条件を一切変更できないかというと、そのようなことはありません。契約の変更も、当事者間で合意すれば新たな契約として成立します。

その場合、「変更契約書」又は「変更覚書」若しくは「覚書」などという契約を締結することになります。別に「変更契約書」でも良いのですが、何を変更するのか分かり易くするために、表題に「〇〇〇契約書に関する変更契約書」とすると「契約書」という言葉が重なってスマートではないため「〇〇〇契約書に関する変更覚書」、更には、何が変更対象の契約書かはその覚書本文に書いてあるので、単に「変更覚書」、またそもそも元の契約書を変更することも覚書本文を見れば分かるので、「覚書」で済ますこともあります。

でも表題はともかくとして、pdfなどのファイル名を「覚書.pdf」にしたのでは何のための覚書か分からず、後でファイル検索が難しくなりますので、ファイル名は「〇○○契約書に関する変更覚書.pdf」などとして保管するのが良いでしょう。

変更覚書の内容については、改めて別の機会に紹介したいと思います。

 

bookmark_border[14] 「契約解除」と「解約」

「契約解除」と「解約」は、契約書の中で割と混在して使われることが多いと感じます。私の中では、以下のように区別しています。

  • 契約解除:相手方が契約違反をしたり相手方の事情で契約を継続できない状況になった場合に、相手方に解除通知をして契約を終了させること
  • 解約:特に理由は必要なく、一方の当事者が契約を終了させたいときに、所定の猶予期間をもって相手方に解約通知をして契約を終了させること

なお、契約解除の場合は、契約が継続できないことにより自分に損害が発生することがありますので、併せて損害賠償請求を行うことができる(逆に解除された側は解除者に対して損害賠償請求できない)旨を明記するのが良いと思われます。

他方、解約の場合は「所定の猶予期間」が重要になります。たとえば「解約の際は60日前までに相手方に書面で通知」という条件の場合は、60日を下回る期間での通知は不可です。ただし契約によっては、猶予期間に満たないタイミングでの通知であっても、その不足期間分の契約金額に相当する補償金を支払って解約できると規定されているものもあります。

bookmark_border[13] 契約期間

通常、契約書には「契約期間」が規定されます。契約期間とは、その契約の開始日から終了日までの期間のことです。開始日は契約の効力が発生する日ですので、「契約発効日」ともいいます。

契約発効日と似た言葉に「契約締結日」があります。これは契約を締結した日で、原則として契約当事者全員がその契約書に記名押印又は署名した日です。契約書末尾の署名欄の部分に締結年月日を記入しますが、契約書を作成する時点ではいつ押印又は署名が完了するかわからないため、ここはブランクにしておきます。

でもこのようにすると、最後に押印又は署名した人が契約開始日を記入するのを忘れてしまいブランクのままになってしまうおそれがあるため、あらかじめ記入しておくことも結構あります。

なお、契約締結日がそのまま契約発効日になる訳ではありません。契約締結日は上述のとおりなのですが、他方、契約発効日は契約条件の一つとして設定されます。契約発効日は契約締結日の前でも後でも良く、ただ前の日にすると契約発効日から権利義務が発生しますので、契約を締結した瞬間に契約発効日に遡って義務が発生することになります。

問題となるのはNDAで、まだ契約締結前なのに相手方から受領した秘密情報をしっかり管理しておかなければなりません。

と色々書いてきましたが、契約によっては「本契約の有効期間は、契約締結日から1年間とする。」というように、契約締結日を契約発効日とすることもあります。

なお、契約によっては規定された全ての権利義務の履行が終わればそれで役目を果たすものも多く、その様な契約には必ずしも契約期間を規定する必要はありません。

bookmark_border[12] 「準委任」と「請負」

業務委託契約の代表的なものに「準委任」形式と「請負」形式があります。

「準委任」は、業務の履行自体が目的となるもので、極端に言えば、契約期間中、決められたことをやれば良いというものです。他方「請負」は、業務の結果や成果物について責任を負うものです。

そのため、委託側としては「請負」の方が良いのですが、そのためには契約締結時に成果物に関してきちっと仕様書を取り交わす必要があります。それを元に受託側が業務を遂行するのですが、逆に契約締結時には何をやってもらうかまでは決まったものの、最終的な成果物の仕様が曖昧だったり、成果物が発生しない単なる作業のみの場合は「準委任」となります。

委託側は受託側に責任の重い「請負」にしたい、受託側はなるべく責任の軽い「準委任」にしたいという気持ちで契約交渉に臨むのですが、両者の力関係(通常は委託側が強い。)で、仕様が曖昧なまま納期や契約金額が決められてしまい、請負形式での業務委託契約を締結させられるというケースがあります。

ただその様な事態を回避する方法として「成果完成型」の準委任契約もあります。これは成果物を委託側に納入するという点では「請負」と同じですが、受託側には完成義務が無いため、契約期間内でできたところまでの成果物を納入すれば受託側の責任を果たしたことになります。

ちなみに、「準委任」か「請負」かで、契約書に貼る収入印紙が変わります。準委任は印紙税がかからない不課税文書で、他方請負は「2号文書」という課税文書となり、契約書がどちらの形式に属するかは結構重要です。なお、単に契約書の表題や本文に「準委任」と記載したのではダメで、印紙税調査の際、契約条件によってどちらの形式かが税務官により判断されます。

蛇足ながら、「準委任」は「委任」に準じた委託行為です。「委任」は民法第643条に規定されているとおり「法律行為」を行うことを委託するものです。具体的な例としては、訴訟などで弁護士を代理人として委任する行為があります。

民法 第643条(委任)

委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

これに対し、通常のビジネスにおいて行われる「準委任」は、民法第656条に規定するように「法律行為でない事務の委託」をいいます。

民法 第656条(準委任)

この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

 

bookmark_border[11] 「履行」と「遂行」

業務委託契約書をレビューしていると、「本業務の履行」「本業務の遂行」のどちらを使えば良いか迷うことがあります。ここで「本業務」というのは、委託対象となる業務のことを指しているとします。

広辞苑から引用すると、

(履行)

  1. 実際に行うこと。言葉どおりに実行すること。
  2. 〔法〕債務者が債権の目的(内容)たる給付を実行すること。弁済と同義であるが、履行は債権の効力の面からいうのに対し、弁済は債権の消滅の面からいう。

(遂行)

  1. なしとげること。しとおすこと。「任務を―する」

ですので、「契約の履行」や「債務の履行」はしっくりきます。他方「業務」の場合は「遂行」が適当ではないかと感じます。

ただ、遂行は最後までやり遂げるという意味がありますので、私が契約書を準備するときは、少しずるいですが、自分が受託側の場合は「本業務の履行」、自分が委託側の場合は「本業務の遂行」とします。

もちろん、お客様が準備した契約書ドラフトはその点は修正しませんが、たまに一つの契約書の中で「本業務の履行」「本業務の遂行」が混在していることがありますので、そこは、統一するように心掛けています。

bookmark_border[10] 係争解決方法

契約の履行を巡って、当事者間で争いになった場合、まずは両者間で良く話し合い、それでも解決しない場合は、あらかじめ両者で決めておいた係争解決方法で解決することになります。

日本企業同士の契約であれば、合意した管轄裁判所に訴訟を提起し、裁判所を通じて途中で和解したり、また最悪の場合には判決、さらには上級裁判所への上訴(控訴・上告)ということもあり得ます。

他方、国際契約の場合は少し厄介で、準拠法にも関わってきます。仮に準拠法を第三国法とした場合、その地で「裁判(Litigation)」をするのか良いかどうかは各当事者の考えによります。裁判所は、他国の企業同士の争いについて丁寧かつ公平に審理してくれるのかどうか・・・という懸念もあります。裁判地を被告国に定めた場合はそれで良いでしょうが、準拠法が第三国法のままですと、裁判地と異なるため少し面倒かも知れません。

そこで、準拠法を第三国法と定めた場合、係争解決方法をその地での「仲裁(Arbitration)」と定めることが良くあります。仲裁では裁判所は関与せず、仲裁人が両者を取り持って解決に導きます。また、仲裁ルールは「ICC(International Chamber of Commerce:国際商業会議所)」のルールが適用されることが多いです。このルールもあらかじめ当事者間で合意しておきます。

仲裁では完全に秘密が保たれますので、取引自体を公にされたくないとか、また機微な情報を扱う場合などは訴訟よりは安全と思われます。

さらに仲裁の大きなメリットとしては、強制執行がし易いという点があります。強制執行とは、裁判での判決や仲裁での判断が下った後、当事者がその結果に従わない場合に、執行裁判所が強制的に従わせるというものです。第三国での裁判判決の場合は、敗訴当事者の国で強制執行を認めることを制限するケースがあります。他方、第三国での仲裁判断の場合は、比較的締約国が多い国際条約である「ニューヨーク条約」に基づき、強制執行を認める国がほとんどです。

せっかく裁判で勝訴したのに、実が得られなければ戦い損になってしまいます。その意味でも仲裁での係争解決が良いのですが、デメリットとして、仲裁人報酬がとても高く、裁判よりもずっと高額な費用がかかりますので、よほど損害額が大きくなければこの方法は現実的ではないかも知れません。また仲裁の場合は、前もって両者間で「係争解決方法は〇〇における仲裁とする。」旨をきちんと合意しておく必要があります。

契約締結時の妥協の産物である「第三国の準拠法」「第三国での仲裁」は、実際にそれを使う場面では特に手間や費用の面で大きな負担になることが予想されます。でも契約履行時にそこまでの争いになることは滅多にないため、まずは「契約締結」を目標とする段階でその様に決めたとしても、それはそれで仕方無いとも思います。

 

bookmark_border[9] 準拠法

海外との国際契約では、契約の「準拠法」が問題になります。

準拠法(Governing Law)とは、その契約が準拠したり契約の条件解釈に使われる法で、どの国(又は州)の法をその契約の準拠法とするかは、契約当事者間で合意し契約書に明示されます。

ただ、この部分で結構もめることがあります。

たとえば、香港企業との契約交渉において、こちらは「日本法(the laws of Japan)」を希望したのに、相手方は「香港法(the laws of the Hong Kong Special Administrative Region)」を希望するというケースがありました。この場合は、公平の観点から第三国法として「シンガポール法」を提案しました。

他に割と良く使われる第三国法には「ニューヨーク州法」「英国法」などがありますが、シンガポール法は、それらと同じように裁判例が豊富に調っていますし、アジア企業同士の契約では、同じアジアのシンガポール法は受け入れられ易いと思います。

なお、アメリカの場合はそれぞれの州が一つの国のようになっていますので、準拠法として「ニューヨーク州法」や「カリフォルニア州法」などの州法が使われます。ちなみにカリフォルニア企業との契約の準拠法には、第三国法(?)としてニューヨーク州法を提案することもありました。